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TVSダイオード保護の設計によりCANバスの信頼性を向上させる

著者 Steven Keeping 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2019-05-29
マルツ掲載日:2019-08-19


 車載用などのアプリケーションで一般的なバス規格であるコントローラエリアネットワーク(CAN)バスは、過電圧や過電流に対する高度な耐性を備えています。ただし、高級車両の電子ネットワークの一部として最大70個の電子制御ユニット(ECU)が使用されるため、設計者は雷や静電気放電(ESD)などが原因で発生する電気的過渡現象による損傷の回避策についてますます懸念するようになっています。このような感度性能の問題が障害のリスクを高め、車両の信頼性を損なう危険があります。

 多くの過渡電圧抑制(TVS)デバイスを入手可能ですが、一般的に車載用アプリケーションは、コスト、重量、信頼性の厳しい仕様による制約を受けます。このような制約により、より大型で複雑なTVSデバイスは排除されます。ただし、最近はメーカー各社が手頃なTVSダイオードの車載用グレードバージョンを発表しています。これは、低コストかつコンパクトで信頼性の高い回路保護オプションを提供します。さらに、他の代替部品と異なり、TVSダイオードはCANトランシーバのノイズイミュニティを向上させ、高周波数通信信号の完全性に与える影響をごくわずかに抑えます。

 この記事では、TVSダイオードが高感度CANバス実装の保護を高レベルかつ低コストで提供する方法を説明します。また、高感度のECUやCANトランシーバを十分に保護するには、車載用グレードデバイスを選択するだけでなく、ピーク電圧/電流、静電容量、リーク電流、およびクランプ電圧を慎重に考慮することが重要である理由を説明します。さらにこの記事では、この用途にふさわしいTexas Instruments、ON Semiconductor、Bourns、SemtechのTVSソリューションを紹介し、正しく適用する方法を説明します。

CANの紹介

 CANは、配線ハーネスの複雑さや重量を増加させることなく、より多くのエレクトロニクスを車両に追加したいという要求から誕生しました。CAN規格は複数の物理層(PHY)をサポートする堅牢なピアツーピアネットワークを規定しますが、最も一般的なPHYは高速バージョン(最大1Mbit/sの生データレートを実現する2線式実装)です。

 このネットワークにより、ECUのような複数のCANデバイス間の通信が可能になります。コネクテッドECUは、ネットワーク上の他のすべてのデバイスに接続するのに、単一のCANインターフェース(複数のアナログおよびデジタルI/Oではなく)のみを必要とします。これにより、複雑な高コストの配線を排除します。

 一般的なCANバス差動(CAN H/CAN L)方式は、シリアルバス上で通信するトランシーバから構成されます。バス上のノード間での信号伝送には、120Ωの公称特性インピーダンスを備えたツイステッドペアケーブルが使用されます。電磁妨害(EMI)イミュニティを向上させるために、スプリットターミネーショントポグラフィが使用される場合が多くみられます(図1)。


図1:CANバスは差動通信方式を使用して、シリアルバス全体でトランシーバが確実に通信できるようにします。(画像提供:Bourns)

 CAN ECUおよびトランシーバは本質的にもろいシリコンから構成されていますが、厳しい動作条件に耐えることが期待されています。たとえば、大部分の車両メーカーはAEC-Q100認定(車両エレクトロニクス用の故障メカニズムストレステスト)を要求します。

 主要な自動車メーカーは、最近の国際規格(ISO 7637およびIEC 61000-4-5)への準拠も要求します。これらの規格は、車両動作中の伝導およびカップリングによる電気妨害をシミュレーションするために設計された電気的過渡現象のテストを規定します。

 一部のチップベンダーの製品は、これらの仕様を満たしています。たとえば、Texas InstrumentsのSN65HVD1050DRG4 CANトランシーバは、?27ボルトから40ボルトのクロスワイヤ、過電圧、およびグランド断線保護、および過温度シャットダウンを特長としています。このチップは、ISO 7637で定義された-200Vから+200Vの過渡現象にも耐えることができます。

 高スペックデバイスの短所の1つはコストです。これは、車両設計において重要な考慮事項となります。第2に、強化されたデバイスは電気的過渡現象にしばらくは耐えることができますが、それが繰り返されると損傷する危険があります。第3に、雷やESDにより、自動車のエレクトロニクスが一部の規格への準拠に要求されるレベルを超えた電圧や電流にさらされる可能性があります。追加の保護により電気的過渡現象をグランドにそらして、高感度のシリコンから遠ざけることは、信頼性向上のために努力する自動車メーカーにとって価値があります。

ダイオードを使用した過渡電圧抑制

 電気的過渡保護機能を実装するために、いくつかの技術が確立されています。これらの技術は、一般的にブロッキング、抑制、絶縁に分類できます。簡単に言えば、ブロッキングはヒューズと回路ブレーカを使用します。抑制は、TVSダイオードや金属酸化物バリスタ(MOV)などのTVSデバイスを採用します。絶縁は、オプトカプラやトランスなどの絶縁デバイスの採用に依存しています。

 ブロッキングは、効率が良く低コストです。短所として、ブロッキングデバイスは起動してしまうと、交換やリセットが必要になります。これは、車載用アプリケーションでは非常に不便です。その対極にあるのが絶縁デバイスです。完全に効率的で交換やリセットの必要がありませんが、サイズが大きく、複雑で高コストです。TVSデバイスはその中間にあります。一般的に効率が良く、コンパクトで中価格帯のデバイスです。

 TVSデバイスには幅広いタイプがあり、TVSダイオード(およびTVSダイオードアレイ)、MOV、および独自の過渡電流抑制デバイスが含まれます。TVSダイオードは最も高性能なTVSデバイスではありませんが、低コストで耐性があるため(特にAEC-Q100およびISO 7637規格を満たすCANノードと組み合わせた場合)、スペースとコストに制約のある車載用アプリケーションの回路保護において優れた選択肢となります。

 TVSダイオードは、専用設計されたp-nデバイスで、高い電気的過渡電流を吸収するための大きな接合断面積を備えています。TVSダイオードの電圧/電流特性はツェナーダイオードの特性に似ていますが、このデバイスは電圧安定化よりも電圧抑制のために設計されています。他の抑制デバイスと比較したTVSダイオードの主な利点は、電気的過渡現象に対する迅速な応答(通常数ナノ秒以内)です。これにより、過渡現象のエネルギーを安全にグランドにそらして、クランプ電圧を一定に保ちます。

 理論的に、この保護メカニズムは簡単です。通常の動作条件下では、TVSダイオードは保護された回路に対して高インピーダンスを示しますが、保護された回路の安全動作電圧を上回ると、TVSダイオードはアバランシェモードで動作し、過渡電流にグランドへの低インピーダンス経路を提供します。保護された回路の最大電圧は一般的に控えめで、ダイオードのクランプ電圧に制限されます。電気的過渡電流がおさまると、TVSダイオードは高インピーダンス状態に戻ります(図2)。


図2:TVSダイオードは、電気的過渡現象にグランドへの経路を提供して、電圧を安全なレベルにとどめることにより、回路を保護します。(画像提供:Semtech)

 実際には、ネットワークは差動シグナリング方式により電力だけでなくデータも供給するため、CAN実装の保護回路がさらに複雑になります。

CANアプリケーション用TVSダイオードの選択

 TVSダイオードには、2つのタイプ(一方向および双方向)があります。各タイプは正および負の両方のサージに対して保護を提供しますが、主な違いは降伏電圧(デバイスがアバランシェモードで伝導を開始し、低インピーダンスを示す電圧)です。双方向デバイスは両方向で同じ降伏電圧を提供しますが、一方向デバイスの降伏電圧は負過渡電圧スパイクの場合ずっと低くなります(ダイオードの順バイアス電圧と等しい)。

 一方向および双方向デバイスは同じアプリケーションで使用できますが、一部のアプリケーションではこれらの異なる降伏電圧特性が利点となります。たとえば、CANトランシーバがデジタルロジックICに使用される場合、負のサージに対する一方向TVSダイオードの降伏電圧はより優れた保護を提供します。

 双方向TVSデバイスの主な利点として、コモンモードオフセット電圧の問題を解決することが挙げられます。これは、CANトランシーバが公称電圧レベルから2.0Vでオフセットできる信号ライン電圧で機能する必要があるために発生します。双方向TVSデバイスは正および負の方向への大きなクランプ電圧を特長とするため、信号ラインオフセットの影響によりクランプしません。さらに、双方向TVSダイオードは、本質的に双方向のMOVの直接置き換え品としてドロップインすることができます。

 CANバス保護にはいくつかの代替トポロジがあります。最もシンプルなトポロジは、2つの双方向ダイオードから構成されるTVSダイオード配列を使用します。1つをCAN_H(またはDATA_H)ラインとグランドに、もう1つをCAN_L(またはDATA_L)ラインとグランドに配列します。代替配列では、双方向TVSダイオードを一方向デバイスと交換します(図3)。


図3:アプリケーションに応じて、双方向(左)または一方向(右)のTVSダイオードを使用できます。メーカーは2つのダイオードを1つのパッケージに内蔵するソリューションを提供する場合がよくあります。(画像提供:ON Semiconductor)

 個々のTVSダイオードを使用して各CANデータラインを保護することができますが、多くのメーカーは両方のダイオードを単一パッケージに内蔵して提供します。たとえば、ON Semiconductorは、単一のコンパクトなSOT-23パッケージで各CANデータラインに対して双方向保護を提供するNUP2105LT1G TVSダイオードを供給しています。このデバイスは、350Wのピーク消費電力を処理できます。NUP1105LT1Gは、同等の機能を一方向で提供します。

 設計者がトポロジを決定すると、回路の性能は、アプリケーションのニーズと一致する動作特性を備えたTVSダイオードを厳選することにより決まります。

 双方向TVSダイオードの主なデバイスパラメータには次が含まれます。

・逆動作電圧(VRWM):最大DC動作電圧です。この電圧で、ダイオードは非伝導状態にあり、高インピーダンスコンデンサのように機能します。
・逆降伏電圧(VBR):デバイスがアバランシェモードで伝導し、低インピーダンスへ変更するポイント(通常1mAで測定)です。
・ピークパルス電流(IPP):デバイスに指定された最大サージ電流です。
・最大クランプ電圧(VC):IPPでのダイオード全体の最大電圧降下です。
・逆リーク電流(IR):VRWMで測定される電流です。
・テスト電流(IT):VBRでの電流です(図4)。


図4:主なデバイスパラメータを示す双方向TVSダイオードの電圧/電流特性。(画像提供:ON Semiconductor)

 CAN仕様は、重要なトランシーバ特性を詳述します。これに従って、電気的過渡保護を提供するために選択されたTVSダイオードの特性が決定されます。主なパラメータには次が含まれます。

・-3.0/16V最小/最大バス電圧(12Vシステム)
・-2.0/2.5V最小/公称CAN_Lコモンモードバス電圧
・2.5/7.0V公称/最大CAN_Hコモンモードバス電圧
・推奨≧±8.0kV(コンタクト)ESD
・ISO 7673-3/IEC 61000-4-5サージ電流パルス耐性

 開発者が考慮する必要のある最初のパラメータは、VRWMとVBRです。これらのパラメータは、通常動作中にTVSダイオードが高インピーダンスを示すのに十分な値である必要があります。ただし、インピーダンスの高さは、CANトランシーバが危険なレベルの高電圧にさらされるまでデバイスが伝導を開始しない程度にします。

 一般的に自動車の電気系統は12V電池で動作しますが、大部分は緊急時に24V電源からジャンプスタートするように設計されていることに留意してください。TVSダイオードの選択では、この点を考慮に入れる必要があります。

 たとえば、ON SemiconductorのNU2105Lには、1mAで24VのVRWMと26.2VのVBRがあります。BournsのCDSOT23-T24CAN CANバスプロテクタ(SOT-23パッケージのデュアル双方向TVSダイオード)は、同じ仕様を提供します。

 次に、開発者はTVSダイオードの最大静電容量を確認する必要があります。大きな静電容量は、信号の完全性を損ないます。データレートが速ければ速いほど、静電容量を低く抑える必要があります。経験則によれば、信号ラインとグランド間の最大静電容量は、125kbit/sのデータレートで100pF、1Mbit/sで35pFです。

 一部のデータシートは0Vでの静電容量を記載しているのに対し、他のデータシートはCANトランシーバの平均電圧(2.5V)での静電容量を記載していることに注意してください。さらに、2つの差動信号の静電容量を一致させることにより、アンプの出力信号でパルス幅の完全性を維持する必要があります。

 たとえば、0Vおよび1Mbit/sの場合、BournsのCDSOT23-T24CANの静電容量は、信号ラインとグランド間で22pFです。SemtechのUCLAMP2492SQTCT(CANバスサージ耐性用に専用設計された2つの双方向TVSダイオードを内蔵するSOT-23パッケージ)は、信号ラインとグランド間で15pFの静電容量(0Vおよび1Mbit/s)を特長としています。

 逆リーク電流(IR)が低いデバイスを選択して、システム効率を最大化することも理にかなっています。IRは温度と共に上昇するため、デバイスの選択時には動作条件を考慮に入れる必要があることに注意してください。たとえば、NUP2105LのIRは25℃で0.1μA、UCLAMP2492SQTCTデバイスのIRは25℃で0.2μA、125℃で0.35μAです。

 最後に、開発者は、TVSダイオードが損傷を受けることなく、非反復の電気的過渡サージのエネルギーを放散できるようにする必要があります。また、電気的過渡ピーク電流時のクランプ電圧がCANトランシーバを損傷しないようにする必要があります。

 IEC 61000-4-5(サージ耐性をテストする方法を規定するIECの規格)は、TVSダイオードの能力を決定するのに使用される一般的なサージ波形を詳述しています。波形は8μsでピーク値の90%に達し、20μsでピーク値の50%にまで減衰します。データシートでは、これを「8/20μs波形」と記述している場合がよくあります(図5)。

図5:IEC 61000-4-5で規定されているTVSダイオードのサージ耐性テスト用の波形パラメータ(8/20μs)の例。(画像提供:Bourns)

 図6は、11A 8/20μs波形に対するBournsのCDSOT23-T24CAN TVSデバイスの応答を示しています。メーカーによると、最大クランプ電圧は5Aサージの場合36V、8Aサージの場合40Vです。ON SemiconductorのNUP2105Lの場合、最大クランプ電圧は40Vおよび44Vで、ピーク消費電力は350Wです。SemtechのUCLAMP2492SQTCTの場合、最大クランプ電圧は5Aで44Vです。


図6:11A 8/20μs波形に対するBournsのCDSOT23-T24CANの応答サージ電流過渡および36.4Vのクランプ電圧ピークに対するTVSダイオードパッケージの迅速な応答に注目してください。(画像提供:Bourns)

 開発者が用途に適切なTVSダイオードを選択したら、最適なパフォーマンスを実現する最善のプリント基板レイアウトを慎重に考慮する必要があります。最優先の原則は、過電圧によりアクティブ化されたら、損傷をもたらす可能性のあるサージをTVSダイオードによりCANトランシーバから遠ざけ、グランドプレーンで安全に放散することです。

 たとえば、Bournsは、信号ラインへのトレースを短くし、バスコネクタのできるだけ近くにSOT-23デバイスを配置するようにアドバイスしています。このメーカーは、一般的な電気的過渡現象からのピーク電流レベルを処理するには標準の10ミル、1オンスの銅トレースで必要十分であるとアドバイスしています。

 デバイスのグランドピンは、短いトレースとビアを使用してPCBグランドプレーンに接続する必要があります。最後に、TVSダイオード近くの信号側にグランドプレーンがある場合は、コンポーネントをグランドプレーンに直接接続する必要があります(図7)。


図7:BournsのCDSOT23-T24CAN用の推奨プリント基板レイアウトTVSダイオードを内蔵するSOT-23は、CANバスコネクタにできるだけ近く配置する必要があります。(画像提供:Bourns)

結論

 コスト、スペース、重量の制約により、CANバスデバイスを雷やESDなどの極端なイベントから保護するソリューションの幅が制限されます。ただし、TVSダイオードは、これらの制約および保護性能の間で許容可能なトレードオフを提供します。実装を成功させるカギは、TVSダイオードの電気的特性をアプリケーションと入念にマッチングさせ、CANバスの通常動作に影響を与えることなく確実に保護することです。

 CAN車載用アプリケーションのために専用設計された一方向または双方向TVSデバイス内蔵のコンパクト(SOT-23)ソリューションが最近導入されたことにより、コンポーネントの選択が容易になっただけでなく、設計の複雑さやスペース要件も緩和されました。

参考文献
(1)TVSダイオードの回路構成オプション、AND8231/D、ON Semiconductor、2017年3月。
(2)TVS Diode Selection Guidelines for the CAN(CAN用TVSダイオード選択ガイドライン)、AND8181/D、ON Semiconductor、2004年8月。



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