無帰還純A級オールディスクリート・ヘッドホン・パワーアンプの設計
NFB量可変、Rコア・トロイダル型ハムレス・カスタム・トランス搭載、余裕の1200mW@30Ω駆動
[設計・開発]Takazine  [企画]ZEPエンジニアリング

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[技術解説記事]無帰還純A級オールディスクリート・ヘッドホン・パワーアンプの製作
MZ-HPA1000-DA1



無色透明なスタジオ向けプロ用モニタ MDR-M1STを鳴らしきる

 30年以上の長きにわたり,世界の多くのスタジオで楽曲製作を担ってきたプロ用モニタ・ヘッドホン 「MDR-900ST(ソニー製)」の後継、「MDR-M1ST」が発売されました(写真1).

 試聴してみたところ、このモニタ・ヘッドホンは駆動アンプの音をそのまま出してしまうことに気が付きました。OPアンプで駆動するとOPアンプの音が、スマホに接続するとスマホの内蔵アンプの音がそのまま出てしまうのです。モニタとしては正しいのですが、私は音楽を楽しむことができませんでした。OPアンプの音を聴きたいわけではなく、その先から流れてくる音楽を聴きたいのです。

 高級なリスニング向けヘッドホンは、ヘッドホン自体が勝手に良い音に響いてくれるため、OPアンプ回路でもそこそこ良い音が聴けます。しかしMDR-M1STはそういった後付けの響きを全く出さず、ありのままをさらけ出す「真のモニタ」でした。

 「MDR-M1STを良い音で鳴らせれば、どんなヘッドホンでも良い音で聴けるはず」と考え、新しいアンプの開発に着手しました(写真2)。表1に本機のスペックを示します。





写真1 プロ用モニタ・ヘッドホン MDR-MISTを鳴らし切ることがきるパワー・アンプを開発



写真2 開発した純A級フルディスクリート・パワー・アンプの製作キット「MZ-HPA1000」
NFB量可変(ゼロ設定可能)、スイッチングひずみが発生しない純A級出力段、漏れ磁束の小さいRコア・トランスを搭載

表1 MZ-HPA1000のスペック
ヘッドホンの多くは10mWも加えると爆音が出る

 

電力増幅段,NFB,そしてトランスにこだわり

●原理的にスイッチングひずみが発生しないA級出力段を採用
 本機は、オール・トランジスタ構成です(図1、図2)。

図1 パワー・アンプ部
差動1段+上下ダーリントン・カスコード構成による低NFB回路終段は4パラSEPPによる無帰還A級増幅回路。NFB量切換え機能(NFB量をゼロに設定可能)。低DCドリフト回路(±10mV以下)

図2 電源ON/OFF時のポップ音が出ないプロテクション搭載電源回路


 目指したのは、どんなヘッドホンでも躍動感あふれる「音楽」を奏でるアンプです。そのために回路技術も物量も惜しみなく投入し、スピーカ駆動用パワー・アンプ並みの大容量電源も搭載しました。

 出力段の動作モードB級やAB級は、上下のパワー・トランジスタがOFF状態からON状態になったり、逆にON状態からOFF状態に切り替わるタイミングでひずみを発生させます。

 一方、本機が採用するA級は、無信号のときでもパワー・トランジスタに最大出力時と同じ大きさの電流を流して、常時フル回転状態にあるため、ON⇔OFFの切り替わりによるひずみは発生しません(図3)。

 20W~100Wなど、スピーカを駆動する大出力のパワー・アンプをA級動作させるには、十二分な放熱対策を講じなければないませんが、負荷がヘッドホンなら0.1~1W程度と小出力のアンプで十分に駆動できます。


図3 A級出力段の出力-全高調波ひずみ率+雑音

●負帰還量をゼロに設定可能

 アンプのひずみ率やSN比にこだわるのであれば、高速・高精度なOPアンプを使って多量のNFB(Negative Feed-Back)により特性を良くするのが近道でしょう。

 しかし、諸特性だけを追い求めるのではなく、真空管アンプのように特色のあるアンプで音楽を楽しく聴くという趣味性の高いものがあっても良いと考えました。今回、設計したアンプは、増幅部の裸特性をできる限り伸ばしてNFBによる補正を最小限にした回路です。2段目から少量のフィードバックを掛け、最終段からは帰還しない終段無帰還アンプです。また、スイッチひとつで2段目からのフィードバックも撤廃した、完全無帰還の音も聴けるものにしました。なお、前段へ戻すNFBループがないという意味。各段で自己帰還を掛けています。

 図4に、本機のNFB量と周波数特性を示します.

図4 NFB量とゲインの周波数特性

●高感度ヘッドホンでも低雑音再生!低リーケージRコア・トランス TRS-1000を採用
 高感度なイヤホンは、10μ~20μVの微弱な信号でも聴こえますから、わずかなハム・ノイズも許されません。ハム・ノイズは、電源リプルだけでなく、トランスから漏れ磁束が大きければ、配線へ直接誘導ノイズが乗り聴こえてきます。たとえ、アンプ回路の電源を断っていたとしてもです。

 そういった経験から、今回は、リーケージ・フラックスの少ないRコアのトロイダル・トランス(TRS-1000、PHONIX製)をカスタム製作しました(写真3)。

 http://www.pnxcorp.co.jp/index1.htm

 100VA巻けるコアに対して、約75VAの巻き線と余裕を持たせて磁束密度を標準値よりも下げたため、よりリーケージの少ないトランスに仕上がりました。

写真3 高感度なヘッドホンもハム・ノイズが聞こえないように漏れ磁束の少ないRコア・トランスをカスタム開発

プロ・オーディオ用電子制御ボリューム PGA2311でグレードアップ!

 抵抗体を使った可変抵抗はチャネル間の音量誤差(ギャング・エラー)が少なからず存在します。特にボリュームを大きく絞り、音量を減衰させたときに顕著に現れます。

 オーディオ・メーカが中級機以上で使用する可変抵抗はアルプス電気など可変抵抗メーカに、ギャング・エラーを1dB以下などと規定して納品してもらっています。そのため、市販されているアンプは目立った左右差は出ません。

 ところが、秋葉原やアマゾンで入手する可変抵抗は、特別なギャング・エラー選別を行っていない一般品ですから、運が悪いと明らかに左右の音量差が出ます。
 電子ボリュームは、半導体の精密なプロセスで製造されるので、チャネル間の誤差を非常に小さく作ることが可能です。例えば、PGA2311(テキサス・インスツルメンツ製)は、0.05dB以下の実力をもちます。

 本キット MZ-HPA1000は,このPGA2311を使用した電子ボリューム基板(写真4)を使用することができるように設計しています。

 

写真4 本キットには左右バランス・エラーが0.05dB以下の低ギャング・エラー電子ボリューム基板を搭載することも可能
実装済みモジュールを準備中(2021年1月中発売予定)

Ⓒ2020 Takazine

●開発者ウェブサイト
https://nw-electric.way-nifty.com/blog/2020/05/post-80b712.html


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