◎回路説明
★Q1、Q2の役目
ブロック図で表現すると図2になり、Q1、Q2は入出力のバッファです。役目は入力インピーダンス(インピーダンスという言葉は少し難しいかもしれないので、抵抗と思ってください)を高くし、出力インピーダンスを低くすることです。
具体的に図3で考えてみます。送り側には出力インピーダンスRoが存在し、受け側の入力抵抗がRinです。送り側はVoの信号(レベル)を送り、実際に受け側に現れる信号はVinです。
RoとRinを抵抗分割した形ですからVinは①式で表わされます。計算が簡単になるようにVoを1Vとしました。
a ) はRo ≫ Rin の関係で、この場合、Vinが0.166Vとかなり小さくなってしまいます。つまり、この関係では電圧ロスが大きくなります。次にb ) の Ro ≪ Rin の関係ではこの抵抗比率ではVinが0.9Vとなって効率良く信号を受け渡すことができます。
Q1はこのようにインピーダンス変換を行い、Q2も同様なのですが、厳密には真空管V1の出力部インピーダンスが高いので電圧増幅度のロスを防ぐのが目的です。
図4で回路の入力インピーダンスを計算してみます。電源(12V)は交流的に見るとGNDです。つまり、このラインをGNDに接続すればR1の上側はGNDです。また、FETの入力抵抗は非常に高いのでこれを無視すれば図4の右図になります。さらにC1のリアクタンスを扱う交流信号に対して十分小さな値(0Ω)とすれば入力インピーダンスZiはR1とR2の並列合成値です。この例では R1 = R2 = 1MΩ ですから Zi = 500kΩです。
R1、R2の値は1MΩにこだわる理由はないと思います。相手機器(送り側)にもよりますが、例えば、R1 = R2 = 470k (この場合のZiは235k) R1 = R2 = 200k (この場合のZiは100k)でもかまわないと思います。
出力インピーダンスZoは図5の②式で計算できます。相互コンダクタンスはFETの種類、動作点で異なるのですが、2mSと仮定しました。これにより出力インピーダンスZoは476Ωです。
この値はトランジスタによるエミッタフォロワ回路よりも高いのですが、バイアス回路を含めた真空管(V1)回路の入力インピーダンスが30kΩ付近と考えられるので、476Ωの値は十分小さな値と考えられます。
ソースフォロワ(ドレイン共通回路)の電圧増幅度は1より少し小さい値になります。図6の③式で計算すると0.952倍、デシベルでは-0.42dBです。このように細かく計算する必要はありません。ソースフォロワを通すと若干のロスがあるということを意識しておけば良いと思います。
以上のようにソースフォロワは入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低い回路で、このような用途をインピーダンス変換と言います。
インピーダンス変換が目的ですからトランジスタによるエミッタフォロワまたはオペアンプを用いたバッファでも良いわけです。
エミッタフォロワでも電圧増幅度が1より若干小さくなり、出力インピーダンスもあります。これも計算が面倒ですから、オペアンプによるバッファが一番簡単です。
★真空管部
バイアスはデータシートどおりですのでここでは説明は省略し、真空管部の増幅度について簡単に説明します。
図7に相互コンダクタンスgmを用いた等価回路を示します。RLは真空管回路の負荷で図1のQ2がこれに相当します。
gmはグリッド(4ピン)の電圧変化分とプレート電流変化分の比です。つまり、電流を電圧で割っているのでコンダクタンスです。単位はS(ジーメンス)で、トランジスタ、FETなどではmSオーダーになり、真空管ではμSオーダーが多いようです。
電圧増幅度Avは④式で、真空管の内部抵抗rpとgmが分かれば計算できます。また、マイナスの符号が付いているのは入出力の位相が反転することを意味しています。
図1では位相が反転しないソースフォロワが2か所ありますから、結局、図1のテスト回路は反転アンプです。
図8に計算結果を示します。RL(Q2) ≫ rp、Rp なので図8ではRLを省略しました。
相互コンダクタンスgmはプレート電圧Epが6V~7V近辺、グリッド電圧Egが2.3V近辺での条件における実測値です。
これを元にrpを400kΩと推定すれば電圧増幅度Avは5.42倍(デシベルでは+14.6dB)です。Q1、Q2のロス分を含めれば全体の増幅度の実測値とほぼ一致します。
細かく計算してきましたが重要なことはRLの値です。
RLは図7のように並列接続されますのでこの値が小さいと真空管から見た負荷が小さくなります。
つまり、増幅度が小さくなるということで、なるべく大きな値にしなければなりません。
図9にRLの条件をまとめると、rpが400k、Rp(R6)が330kですからその並列合成抵抗値は約180kです。
RLの目安は数メガΩ以上が必要で、図1の回路ではQ2にJFETを用いているわけです。つまり、Q2の役目は高いインピーダンスで信号を受けて真空管増幅段のロスを防いでいます。
◎実験機の製作
★ユニバーサル基板による製作
写真1に実験機の様子を示します。
片チャンネルのみの製作なので、72mm×47mmサイズのユニバーサル基板が丁度良いです。6P1は振動対策などが必要のようですが、写真のように基板実装していません。
基板への配線は線材を用い、ピンにストレスがかからないように細く柔らかい線材を用いました。
たぶん、UL1007のAWG28かAWG30だと思います。
写真のように6P1も含めてむき出し状態ですから、絶縁物を下に敷いてショートしないようにします。
電源は市販のCV/CC機能(CVとは定電圧、CCとは定電流のこと)の付いたシリーズレギュレータ方式をお勧めします。消費電流はフィラメントが支配的で最大20mAほどですから乾電池でも良いです。
★電圧チェック
組み上がった後に電源ショートチェックをしてから電源を投入します。
まずは図1にあるDC電圧をチェックします。今回は抵抗にカーボン抵抗を用いています。これによる定数誤差と真空管のバラツキによって差があるかもしれませんが、図1の値に近ければOKと思います。
ここで注意しておきたいことは用いるテスターです。アナログテスターはこの測定に不向きで使えません。
理由はアナログテスターの内部抵抗が小さいので、電源電圧が低い高インピーダンス(高抵抗)回路では測定できないからです。具体的に図10で説明します。
アナログテスターの内部抵抗(アナログテスターの内部を見た時の抵抗)は一般的に低く、例えば20kΩ/Vなどと表示されています。(機種によっては50kΩ/V、100kΩ/V)
測定値に合った適当なレンジを選択しますが、例えば10Vレンジにするとテスターの内部抵抗は 10V×20kΩ/V = 200kΩ になります。
つまり、図10のR1とR2の接続点にテスターを接続するとテスターの200kΩがR2と並列接続された形になり、1MΩと200kΩの合成抵抗は約166kΩです。回路を乱した状態で測定していますから、6V前後のはずが約1.7Vの測定結果になってしまいます。
このように内部抵抗の影響を受け、真空管のプレート(7ピン)も高インピーダンスですから同様にこの部分も測定不可です。
ですから、DC電圧測定にはデジタルテスター(マルチメーター)を使用してください。
★調整
図11に調整要領と必要機材を示します。
発振器はオーディオ帯域のCR発振器またはファンクションジェネレータ等です。
アンプ出力が飽和しない程度のレベルを入力し、この例では200mVrms程度を入力すれば出力に最大1Vrms程度の信号が現れます。
VR1を調整し、最大出力となるようにします。アナログ式(メーター)の電子電圧計ですと最大(ピーク)が 分かり易いです。電子電圧計が無い場合、オシロスコープでも可です。
このように調整し、私の場合、4ピンのDC電圧値が2.3Vでした。バラツキがあると思いますので必ずこの値になるとは限らないと思います。
写真3に最大出力に調整した時の波形を示します。この時のひずみ率(THD)は1%です。入力を上げれば出力も大きくなり、さらに大きくすると上下が均等にまるまる綺麗なひずみ波形になります。
写真4は調整がずれている時の波形で、上下が均等ではありません。
★簡易信号発生器による調整方法
調整は発振器が必要になりますが、代替えとして図12の簡易正弦波発生器とデジタルテスタを用いて行うことができます。
図12の回路を簡単に説明します。
まず、オペアンプで矩形波を発生させます。欲しいのは正弦波ですからLPF(ローパスフィルタ)で高調波成分を減衰させて正弦波に近い波形にします。
この信号はかなり小さくなっていますのでアンプを通してさらにボリュームVRでレベル調整します。
0.01μFのコンデンサはフィルム系です。容量誤差±5%が望まれ、抵抗はカーボン抵抗です。
参考として図13に発振周波数の計算式を示します。
この場合、オペアンプはRail-to-Rail出力タイプが必要で、今回はLMC6482を用いました。矩形波発生はタイマーICの555でも可能です。(ただし、Duty50%の回路構成が必要)
周波数は抵抗値種類を増やさない目的で、Ra = Rb = Rc = 100K とし、C = 0.01μF とすればRdの値は72kです。この値はE24系列にありません。各抵抗誤差、コンデンサC容量誤差もありますので、正確に1KHzにしたい場合、Rdをボリュームにします。
私の場合、1KHzに近い値で良かったのでRdを固定抵抗の62kで周波数が1.04KHzとなりました。
図13の方式は簡単に構成できますから覚えておくと便利な回路です。
波形品質はあまり期待しないで下さい。写真5にブレッドボードで組んだ正弦波観測波形を示します。正弦波に近い波形だと思います。ちなみにこの波形ひずみ率は約4%でした。これでも今回の用途では十分です。
図12の回路で得られる正弦波レベルは電源電圧に依存します。電源電圧は用いるオペアンプによって異なり、この例では3V~12Vの範囲としました。
今回のような用途では数V以上のレベルは不要なので3V動作(例えば単3電池×2)で十分です。
信号レベルはデジタルテスタで確認することもできます。
AC電圧ファンクションモードで測定しますが、ここで注意しておきたいことは用いるデジタルテスタの確度保証周波数範囲です。この範囲は機種によって異なり、例えば、50Hz~200Hzなどのように規定され、この周波数範囲の信号を測定した場合に確度が保証されています。したがって、50Hz~200Hzの範囲では1KHzの確度は保証されません。
私の所有しているハンディタイプの中では1KHzを保証している機種があります。取扱説明書で確認することをお勧めします。
ちなみにLinkmanのLDM-81Dの周波数特性を実測したものをグラフ1に示します。100Hz、1Vrmsを基準(0dB)とし、周波数を変えた時の測定値です。実際の測定単位はVrmsですが、これをデシベルに換算しています。
この機種の確度保証周波数範囲は50Hz~200Hzです。1KHzのポイントで-0.13dB、10KHzでは-5.3dBです。
特性確認は1台だけなので必ずこの通りになるのかは分かりません。
1KHzは保障範囲外ですから、その時の測定データは使えません。ですが、最大出力確認用途であればこの機種で可能です。
図14に調整例を示します。
入力信号レベルはきっちりと200mVrmsにする必要はありません。この例では0.15Vrmsです。出力最大となるようにVR1を調整し、その時の出力レベルが0.765Vrmsとなった場合、GAINは5.1倍です。
以上